宇宙は「膨張」している(2)-膨張宇宙の証拠-

宇宙
Credit: Arthur Sasse/Nate D. Sanders Auctions

前回の記事では、宇宙がどのように膨張しているのかを簡単にイメージしてみました。

宇宙は「膨張」している(1)-宇宙膨張のイメージ-
宇宙空間は、実は膨張し続けているのです。まずは宇宙がどのように膨張をしているのか、簡単にイメージしてみましょう。

今日の記事では、宇宙がなぜ膨張しているのか、そしてどうやってその事実を突き止めたのかを見ていきましょう!

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宇宙は静止している?

人類は長い間、宇宙が有限の大きさで、なおかつ始まりも終わりもない普遍的なものだと信じていました。あの偉大な物理学者であるアルバート・アインシュタインですら、宇宙は恒久的なものであると言う静止宇宙モデルを提唱していました。

著名な物理学者の一人、アインシュタイン。Credit: Arthur Sasse/Nate D. Sanders Auctions

そんな静止宇宙を信じていた彼ですが、とんでもない大発見をしてしまいます。そう、かの有名な相対性理論(または相対論)です!

 

相対性理論の枠組みの中で、彼は「アインシュタイン方程式」と呼ばれる関係式を導き出しました。

アインシュタイン方程式とは、簡単に言うと物やエネルギーがこんな風に存在していれば、その周りの空間はこうなっていますよ、という関係を表すものです。アインシュタインは、早速アインシュタイン方程式を私たちの宇宙に当てはめてみました。すると、宇宙空間は宇宙に存在する物質の重力により収縮し続けると言う信じがたい答えが得られることに気がついたのです!

宇宙が収縮していると言うことは、永遠の存在だと思っていた宇宙に終わりが存在することを意味しています。この結論を、静止宇宙モデルを信じていたアインシュタインは受け入れることができませんでした。

そこでアインシュタインは、自らが導き出したアインシュタイン方程式に改造を施すことを考えついたのです!宇宙空間が重力によって収縮しないように、「宇宙項」と呼ばれる補正を加えたのです。

宇宙項とは、外側に向かって空間を押し出す力(斥力と言います)を想定して導入されました。これにより、縮もうとする空間を外側へ押し出して、何とか静止したままの宇宙を保とうとしたのです。

観測により暴かれた宇宙膨張の証拠

「宇宙項」で宇宙は安定したか?

アインシュタインは自らが導き出した方程式に修正を加えてまで宇宙を静止させようとしました。ですが、これは付け焼き刃的な作業でした。アインシュタイン方程式に宇宙項を加えても、決して安定した静止宇宙とはならなかったのです。

例えるならば、絶妙なバランスで針の上にボールを置いたような感じです。確かに静止はしていますが、ちょっとしたことですぐバランスを崩し、宇宙は膨張や収縮に転じてしまうことが分かったのです。

宇宙項では安定して静止せず、すぐ膨張や収縮に転じてしまうことが明らかとなった。Credit: IllustBox

さらにアインシュタインにとっては悪いことに、宇宙が膨張していることを示唆する観測結果が見つかり始めたのです。

ここからは宇宙膨張がなぜ判明したのかを解説しますが、あまり深く考えすぎないで下さいね。もし分からなかったら、「こんな観測から宇宙膨張が明らかになったんだなー」くらいの軽い気持ちでOKですよ!

銀河の観測から宇宙膨張の証拠を掴む!

エドウィン・ハッブルは数多くの銀河の

  1. 地球からの距離
  2. 地球から遠ざかる速度(後退速度と言います)

をそれぞれ測りました。

まず距離ですが、これは銀河に存在する「セファイド変光星」と呼ばれる星を観測しました。セファイド変光星は周期的に明るくなったり暗くなったりを繰り返す星なのですが、実は変光周期が長いほど星が明るいということがすでに知られていました。星の変光周期を測ってあげることで星本来の明るさが分かるので、観測された星の明るさを元にセファイド変光星までの距離が割り出せるのです!

三原建弘氏のスライドより。http://cosmic.riken.go.jp/mihara/uchu1/2006/8kaime

次に銀河の後退速度ですが、これは銀河の赤方偏移を観測しました。原理としては、救急車が近づいてくるとサイレンが高く聴こえ、逆に遠ざかると低く聴こえると言うドップラー効果ですね。以前系外惑星の探査方法でドップラー効果について解説しているので、よろしければそちらもご覧ください。

第二の地球を探そう! 〜プラネット・ハンターたちの狩猟法〜
”プラネット・ハンター”とも称される、太陽系外惑星を専門とする天文学者たち。彼らはどのようにして第二の地球を探しているのでしょうか。

要は、地球から早い速度で離れていく銀河ほど、分光した時の銀河のスペクトルが本来よりも赤い方に移っていると言うことです。

このようにしてハッブルは、

  1. 何日にもわたって銀河の写真を撮り(撮像観測)、観測ターゲットとなる銀河内にあるセファイド変光星の変光周期から銀河までの距離を計算
  2. 銀河のスペクトルを測定し(分光観測)、スペクトルのズレ(赤方偏移)から観測ターゲットとなる銀河の後退速度を算出

といった作業を多数の銀河に対して行いました。

それでは、どのような結果が得られたのでしょうか?以下がハッブルの論文に掲載された結果のグラフです。

ハッブルが観測した銀河までの距離と後退速度の関係。遠い銀河ほど速く地球から遠ざかるという結果が確認できる。

これは横軸が地球から銀河までの距離(1. の観測)、縦軸が銀河の後退速度(2. の観測)を表しています。この結果は、果たして何を意味しているのでしょうか?

遠ざかる速さこそ銀河膨張の動かぬ証拠!

この図は右肩上がりの傾向を示していますね!それぞれの軸が意味するところを汲み取ると、これは地球から遠い銀河ほど速い速度で地球から遠ざかっているということを意味しています。

これこそが正に宇宙が膨張している証拠なのです!どういうことなのか、一緒に考えていきましょう!

前回同様、パン生地で作られた楽しい宇宙を考えてみましょう。あなたは生地に練りこまれたレーズンの一つです。

当ブログではすっかりおなじみの「レーズンパン宇宙」です(笑)

さて、パン生地がオーブンで焼かれて私たちの楽しいレーズンパン宇宙が膨張し始めました。すると、あなたの周りのあるレーズンは全てあなたから遠ざかっていったのではないでしょうか?

そうなのです。宇宙空間が膨張すると、周囲に存在する銀河は全て私たちから離れていってしまうのです。

では、すべてのレーズンがあなたから等しく離れていったでしょうか?あなたのすぐお隣にいるレーズンと、パンの表面近くにいる遠いレーズンを考えてみましょう。パン生地が膨らむと、これらのレーズンはどうなるでしょうか?…そうです、お隣さんのレーズンはあなたから少ししか離れず、逆に遠くにいるレーズンはあなたからより遠くに離れたことでしょう!

このように、膨張する宇宙においては近くの銀河はゆっくりと、逆に遠くに存在する銀河は速いスピードで私たちから遠ざかってゆくのです!

以上のような観測事実から、宇宙が膨張しているということが受け入れられるようになりました。自分で考えた方程式に修正を加えてまで静止宇宙モデルを保とうとしたアインシュタインも、ついに宇宙膨張を認めて宇宙項の導入を撤回しました。その際に、「宇宙項の導入は我が人生最大の過ちである」とアインシュタインが発言したと語り継がれています。

なぜ宇宙は膨張するのか?

ハッブルの観測により宇宙が膨張しているということが分かりましたが、なぜ膨張しているのかまではその後も議論が続きました。その中で、以下の二つのモデルが唱えられました。

  1. 宇宙には始まりがあり、高温高圧の火の玉宇宙が膨張して現在の宇宙になった。
  2. 宇宙には始まりも終わりもなく、無から生まれた。膨張しているのは別にOK。

一つ目は分かりますね!そう、ビッグバン理論です。初めは中々受け入れられなかったビッグバン理論ですが、こちらも様々な観測証拠が見つかることで多くの人が支持するようになりました。

一方で二つ目は定常宇宙論と呼ばれる理論です。こちらは宇宙膨張は別に認めるけど、宇宙に始まりや終わりがあるということは認めないというものでした。ですが一つ大きな欠陥があり、それは宇宙の物の量(物質密度と言います)を保つために、無から物質を生成するということを認めなければなりませんでした。それはエネルギー保存則など様々な物理法則と矛盾してしまいます。

ビッグバン理論の証拠が見つかり始めたため、定常宇宙論は現在では支持されていません。

こうして、観測で明らかになった宇宙膨張に対してビッグバン理論という理論的な裏付けがついたのでした。

最後に

それでは、本日のまとめです。

  1. アインシュタインは相対性理論を構築して宇宙が収縮する可能性に気がついたが、静止宇宙モデルを信じていたため宇宙項を導入して宇宙が静止し続けるように調整した。
  2. アインシュタイン方程式に宇宙項を導入しても不安定な宇宙ができるだけで、いずれ宇宙は収縮か膨張に転じてしまう。
  3. ハッブルは銀河までの距離と後退速度を観測し、地球から遠い銀河ほど地球から速く遠ざかることを割り出した。
  4. この観測事実により宇宙が膨張しているということが受け入れられるようになり、アインシュタインも宇宙項の導入を撤回した。
  5. ビッグバン理論により、宇宙が膨張するという理論的な裏付けができた。

あのアインシュタインでも間違えるというのは、なんだか安心してしまいますね(笑)彼は柔軟な発想力を持った天才として知られていますが、自分で構築した理論の結果を受け入れることができなかったというのは面白いエピソードですよね!

そしてアインシュタインが「生涯最大の過ち」として黒歴史認定をした宇宙項ですが、実は現代宇宙物理学では復活しています!(笑)1990年代に宇宙が単なる膨張ではなく、徐々に膨張速度が速くなる加速膨張をしているという事実が明らかになりました。宇宙を加速度的に膨張されるエネルギー源として宇宙項が再び注目されるようになったのです。

地球にいながらにして宇宙が膨張、そして加速膨張しているという事実を突き止められるのは本当にすごいですよね!そして、棄却された宇宙項という考え方がのちに復活するというのも本当に興味深い話です。もしかしたら、埋もれてしまったアイディアの中にも今後の科学で重要となるものがまだまだ眠っているのかもしれませんね!

最後に、本記事の参考文献をご紹介します。

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A powerful, streamlined Astrophysics Data System
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