ダークマター研究の歴史2(弾丸銀河団に潜むダークマターの証拠)

ダークマター

前回の記事ではツビッキーにより目に見えない物質がどのようにして発見され、そしてルービンによる観測からダークマターが研究者の間で受け入れるようになった過程についてお話ししました。

ダークマター研究の歴史1(ダークマターの発見)
ツビッキーによるダークマターの発見と、ルービンによる銀河の回転曲線観測から得られたダークマターの証拠

前回ご紹介した銀河の回転曲線の他に、ダークマターの存在を示す観測結果にはどのようなものがあるでしょうか。今回は銀河の集団である「銀河団」に存在するダークマターの証拠を見ていきましょう

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X線とX線天文学

X線ってなに?

みなさんはX線という言葉は聞いたことがありますよね。日常的にX線という言葉を使うのは、おそらく病院でレントゲンを撮る際くらいだと思います。

それでは、このX線とは一体なんなのでしょう?実は、X線とは私たちが目で見ている光と同じものなのです。光はエネルギーに応じてその名前が変わります。私たちが目で直接見ている光は可視光と呼ばれています。そして可視光よりエネルギーが高い光が紫外線、そしてさらにその上がX線なのです。

太陽は日中の間、私たちの地球を明るく照らし出します。これは地球の大気が可視光を吸収せず、直接地表に降り注いでいるためです。ところが紫外線はどうでしょう。そうです、みなさんご存知の通り「オゾン層」によって吸収されるので、紫外線は地表にはほとんど届かないのです。

ですがみなさんが夏に日焼けをするのは、可視光に近いエネルギーの紫外線がオゾン層で完全には吸収されず、みなさんの肌にダメージを与えているからです。光のエネルギーが高いということは、それだけ私たちにとっても危険なのです。

それではX線はどうでしょう。結論を言うと、X線は大気中の原子によって完全に吸収されます。ですので、地球はエネルギーの高いX線にさらされると言う心配はありません。

X線天文学について

太陽からのX線が地表には届かないことは分かりました。それでは、目に見える可視光ではなく、なぜわざわざX線で宇宙を観測する必要があるのかを考えてみましょう。

実は天文現象によって最も強く発せられる光の種類が異なるのです。太陽は私たちの目に見える可視光を最も強く発しますが(というより、太陽の強く発する光を見るように地球上の生物が進化した)、より高温・高エネルギーな天体や天文現象ではX線など強いエネルギーの光で最も明るいことが知られています

X線天文学を含む、色々な光での天文学については後ほどまとめたいと思います。ここでは、宇宙空間に存在する高温の天体であったりエネルギーの高い天文現象によってX線が発せられるということをひとまず覚えておいてください。

しかしながら、X線は地表には届かないということをすでにお話ししました。それではどうやって宇宙から飛んでくるX線を観測するのでしょうか?そうです、大気の外側に望遠鏡を持っていけばいいのです

古くはロケットや気球(!)に観測装置を積んでX線を観測していたそうです。その後は技術が進み、今では人工衛星に観測装置を積んだ「X線観測衛星」を宇宙空間に飛ばして観測しています

日本のX線天文学を10年も支えたX線観測衛星「すざく」(Credit: JAXA)

X線天文学というとあまり馴染みがない方も多いかもしれませんが、日本は世界的に優秀なX線観測衛星を運用し続けており、「X線天文学は日本のお家芸」と世界中の天文学者が口を揃えるほど日本が世界をリードし続けてきた分野なんですよ!

残念ながら、近年はX線観測衛星「ひとみ」の打ち上げに失敗するといった大変悲しい出来事がありました。しかしひとみの後継機の打ち上げも決まっているので、日本の高い技術力と高レベルな研究者が再び世界トップレベルの発見をする日も近いと信じています!!

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弾丸銀河団からダークマターの証拠を掴む!

X線観測衛星により発見された衝突銀河団

さて、ダークマターの存在を示唆する観測結果に話を戻しましょう。天文学者はX線で宇宙を観測し、大きさの異なる銀河団同士が衝突したと思われる「弾丸銀河団」を発見しました。

X線観測衛星「Chandra」により撮影された弾丸銀河団(Credit: NASA)

上の画像はNASAで運用しているX線観測衛星「Chandra」で観測された弾丸銀河団です。X線での観測ですので、光っているものは星ではありません。なんと数億度にまで加熱されたガスなのです!

この画像を見ると、大きい弓状の高温ガスを小さな高温ガスが左から貫いた後だと言うことが分かると思います。右に突き抜けた高温ガスが貫通した弾丸のように見えるので、研究者は「弾丸銀河団」と名付けました。

弾丸銀河団の質量分布を見てみよう

天文学者は弾丸銀河団の全質量がどのように分布しているのかを調べました。銀河団の質量は「弱い重力レンズ効果」というちょっと難しい手法を使って求められました。ここでは一旦その手法のことは忘れて、まずは「弾丸銀河団のガスも銀河も(そしてダークマターも)含んだ全質量が求められた」というところから出発しましょう!

(左)マゼラン望遠鏡で観測された可視光の画像の上に弾丸銀河団の全質量分布を等高線で示した図。(右)Chandra望遠鏡で観測されたX線の画像の上に弾丸銀河団の全質量分布を等高線で示した図。Clowe et al. (2006)より引用。

ここからは少しややこしいので、順を追って頑張って理解していきましょう!

まず上の図の左側は可視光で弾丸銀河団を撮影した画像です。私たちが目で見ることができる可視光で撮影しているので、光っているのは星の集まりである銀河です。

そして緑色の等高線は弾丸銀河団の全質量です。左側の図で等高線と銀河の分布を比較してみてください。等高線の内側ほど銀河が密集している、つまり弾丸銀河団の全質量の分布と銀河の分布が一致していることが分かると思います。

さて、次は右側の図を見てみましょう。こちらはX線で撮影した画像ですので、光っているのは高温ガスです。X線の画像では左側の図のように銀河が全く写っていないので、天体によって発する光が全く違うと言うことが分かると思います。

右側の図で、X線で写った高温ガスの分布と、緑色の等高線で示された弾丸銀河団の全質量分布を比較してみましょう。なんと、質量分布のピークと高温ガスの分布がずれているのです!これは一体何を意味しているのでしょうか?

高温ガスと銀河の分布はどうしてずれる?

一旦ここまでの状況を整理しておきます。

観測方法  全質量分布との位置関係  
銀河可視光分布が一致する
高温ガス X線分布がずれている

次に、なぜ銀河と高温ガスの分布がずれるのかを考えましょう。これは銀河はしっかりと自分の重力で形を保った天体であるのに対し、高温ガスは特に決まった形を持たないふわふわしたものだからです。ちょっと難しい言葉を使うと、銀河は「自己重力系」、高温ガスは「流体」ということです。

銀河同士がすれ違う場合を考えてみましょう。銀河は重さを持っているので、通り過ぎる際にお互いの重さで少し引っ張り合います。それでもよほどスレスレの場所ですれ違わない限り、銀河同士が衝突することはありません。通り過ぎた後はお互いそのまままっすぐ進みます。これは自動車が対向車両とすれ違う時に似ていますね

銀河も車も、よほど接近して通り過ぎない限りはぶつからない。

それでは高温ガスがすれ違う場合はどうでしょうか。高温ガスの場合は流体ですので、すれ違う際に進行方向とは逆の圧力が生じてしまうのです!みなさんもお風呂やプールで手足を動かした時に、その動きを妨げるような抵抗力を感じたことがあるのではないでしょうか。これは「動圧(ram pressure)」と呼ばれていて、流体中を動く物体が感じる圧力なのです。

この動圧によってすれ違う高温ガスはお互いに進行方向とは逆向きの抵抗力を受けます。その結果、なんの抵抗もなく通り過ぎていった銀河と比較して高温ガスは遅れをとってしまうのです。このような理由で、銀河の分布と高温ガスの分布にズレが生じたのです。

高温ガスは流体の動圧によって抵抗力を受ける。

弾丸銀河団の全質量分布と比較してみると…

ここまでは銀河と高温ガスの分布がなぜずれたのかを見てきました。それでは、次に弾丸銀河団の全質量分布との関係を見ていきましょう。

弾丸銀河団の全質量分布と一致しているのは銀河です。ですので、もし銀河が弾丸銀河団の質量の大半を占めているのであればなんの問題もありません。だって、仮に東京都民の総体重の大半を力士が占めているならば、東京都全体での体重分布と力士全員の体重分布は両国で一致してしまいますからね(笑)

現時点では銀河団全体の重さがどのように構成されているかは分かりません。ですが、銀河団の構成要素である銀河については分かっていたのです。

なんと、銀河の総質量に占める星の割合はたった1, 2%しかなく、一方でガスの占める割合は5~15%にものぼります。ということは、銀河の集団である銀河団でも、銀河の重さは全体のたった数%でしかなく、高温ガスはその何倍も重いと言うことは容易に推測できます

観測方法全質量分布との位置関係銀河団全体の重さで占める割合
銀河可視光分布が一致するたったの1, 2%
高温ガス X線分布がずれている5%から15%程度

ここで大きな問題が生じました。軽いはずの銀河がなぜ銀河団全体の質量分布と一致しているのでしょうか?そして銀河より重いはずの高温ガスがなぜ銀河団全体の質量分布からズレているのでしょうか?答えは簡単です。高温ガスよりも重い、可視光でもX線でも見えない物質が銀河団全体を覆っているのです。

この銀河団全体を覆っている目には見えない物質の正体こそがダークマターなのです。こうして私たちは宇宙にダークマターが存在するもう一つの証拠を得ることができました。

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Part 3へ続く

今回は長かったしちょっと難しかったですね。読んでくださった皆様、ありがとうございました!もし分かりづらい点があったら教えてくださいね。

実は銀河の回転曲線も弾丸銀河団の質量分布のズレも、ダークマターを持ち出さないで説明しようとしている人たちがいます。彼らはニュートンの運動法則が太陽系より大きな系では修正が必要だと主張しており、その理論は「修正重力理論(MOND)」と呼ばれています。しかしニュートン力学や一般相対論は宇宙論スケールでもその正確性が証明されており、また次の記事でご紹介する重力レンズ効果について修正重力理論では説明できていません。

最後に、弾丸銀河団からダークマターが存在する確証を得た論文をご紹介します。

私の記事は元々持っていた知識と紹介している論文を読んで得た知識を合わせて執筆しているので、もしご興味があれば皆様も是非研究の元論文に目を通してみてくださいね。

最後までお読みくださりありがとうございました。次は重力レンズ効果の記事でお会いしましょう!

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