先日、Yahoo!ニュースをみていたら高速電波バーストに関する記事を見つけました。

高速電波バーストとは、長くて数ミリ秒程度の時間で極めて強い電波が発せられる現象です。この現象の原因については今でも議論が続いています。かつては大気圏内での現象や天の川銀河内部での天体現象が原因ではないか、と言われていましたが、現在では天の川銀河の外部での天体現象であると推定されています。
今日はオーストラリアにあるパークス電波天文台で観測された、「ペリュトン」という怪鳥の名前をつけられた謎の電波源についてお話しします。
果たして、ペリュトンの正体は何なのでしょうか。天文学者を悩ませた謎の突発的な電波信号と、その驚くべき正体について見ていきましょう。
謎の電波信号、ペリュトンの発見
初めて高速電波バーストが発見されたのは、2007年のことです。しかし高速電波バーストが発生した直後に観測できたわけではなく、なんと2001年に取得されたデータを解析していた時に偶然見つかったのです。
現代の天文学研究の世界では、天文学者が望遠鏡を使える時間というのは実に限られています。ですので各望遠鏡が定める期日を過ぎると、自分が観測したデータであっても全世界に公開されてします。貴重な観測データは一定の占有期間後にみんなでシェアしましょうね、という精神です。
過去のデータから偶然高速電波バーストという天体現象が発見されたので、もっといろんなデータを漁ってみようと思うのが人情です。そこで当時オーストラリアのスウィンバーン工科大学で博士課程の学生であったサラ・スポラー氏(現ウエスト・バージニア大学 助教)は、パークス電波天文台のデータから高速電波バーストのシグナルを探しました。

残念ながら新たな高速電波バーストは発見できませんでしたが、データの中に奇妙な電波信号があるのを発見しました。全く正体不明な電波信号でしたので、彼女らはその謎の電波信号を怪鳥の名をもじって「ペリュトン」と名付けました。
謎が深まるペリュトンの正体
発見されたペリュトンの正体を解明しようとしたのですが、これが意外と難航しました。1998年から2002年の間に取得されたデータの中に11回のペリュトンが検出されたのですが、過去のデータからはその正体を明らかにすることはできませんでした。
しかし、分かったこともあります。パークス電波望遠鏡では、13個のピクセルを空の全く違う方向に向けて電波信号をキャッチしています。言い換えると、デジカメで全く違う方向を撮影しているような状況です。もし天体現象からの信号であれば空の極々小さな一点から発せられるため、その空の領域をカバーしているピクセルだけがその信号をキャッチできます。
ところが、ペリュトンの信号はなんと13個のピクセル全てでキャッチできたのです。これはペリュトンの信号が点ではなく、広がっていることを意味しています。どんなに広がりがあっても、宇宙の遠くへ持っていけば点になってしまいます。ですので、ペリュトンは地上、大気圏内あるいは太陽で起こった現象による信号であることが分かったのです。
これは大きな前進ではありますが、まだまだ課題は山積みです。なんせ大気圏内や太陽による信号だとしても、その現象の候補を絞ることは困難でした。スポラー氏は2011年にペリュトンについての論文を投稿しました。この時点では、ペリュトンの正体について雷、太陽フレア、大気圏での現象などが考えられると記述していましたが、決定的な証拠がなかったためその正体について結論を出すには至りませんでした。
ついにペリュトンの尻尾を掴む
ところが、2015年に入り事態は急転します。この頃、宇宙からの電波信号を素早くキャッチするためのソフトウェアが開発され、信号源を特定するための環境が大幅に改善されたのです。2015年1月に当時スウィンバーン工科大学で博士課程の学生であったエミリー・ペトロフ氏(現アムステルダム大学 NWO Veniフェロー)がパークス天文台で観測をしていたところ、なんと偶然にも3つのペリュトンをキャッチしたのです。
ペトロフ氏ら観測スタッフと観測所で働くスタッフが、ペリュトンの正体解明に乗り出したのはいうまでもありません。まずペトロフ氏は、観測中に観測所内で何か特別な出来事はなかったのかを観測所スタッフに聞きました。残念なことに観測所内では何も特別な出来事はなかったのですが、ここで重要な情報を耳にします。2014年12月に、パークス電波天文台に観測の障害となる電波信号をモニターするための機器(RFI)が導入されていたというのです!
渡りに船ということで早速RFIのデータを調べたところ、なんとペリュトンが発生した時刻に2.5 GHzの信号が発せられていたということが分かったのです。3度のペリュトン全てで2.5 GHzの信号をRFIがキャッチしていたので、あとは「何が」この電波を発したのかを調べるだけとなりました。
明らかになった怪鳥の正体
2.5 GHzの電波を発するものは色々とあります。携帯電話やWi-Fiなどもそうですね。ちなみに、多くの電波観測所ではこういった電波妨害を防ぐため、所内で無線LANは飛んでいません。有線接続をしなければならないのでちょっと面倒です。。。
Wi-Fiではなく、観測所内にあるもので2.5 GHzの電波を発しそうな物と言ったら何でしょう。。。何となく想像がついてきたでしょうか・・・そう、電子レンジです。

パークス電波天文台にも電子レンジがありました。スタッフ用キッチンに1台、観測者の宿舎に1台の豪華2台体制です。ペトロフ氏らは電子レンジを稼働させ、ペリュトンが観測されるかを実験してみました。ところが予想に反して、電子レンジを稼働させてもペリュトンの発生を再現することができなかったのです!
そして3ヶ月後の2015年3月17日、再び電子レンジを用いたペリュトンの再現実験を行いました。今度は普通に稼働させるのではなく、温めが終了する前に電子レンジの扉を開けた(!)のです。するとどうでしょうか、何とペリュトンを発生させることに成功したのです!!
こうして謎の電波源、ペリュトンの正体が解明されました。電波望遠鏡がたまたま電子レンジの方を向いていて、そして早くご飯が食べたくて我慢できないスタッフまたは観測者が温め完了前にレンジの扉を開けることでペリュトンが発生していたのです。長年天文学者を悩ませていた怪鳥の正体は、仕事を完遂できなかった電子レンジがあげた咆哮だったのです。
ペトロフ氏はこれらの実験結果をまとめて2015年に論文を発表しました。その中で、ご丁寧にRFIで捉えた時間帯ごとの2.5 GHz周辺の信号数を提示してくださっています(下図)。確かに、お昼時やそこからちょっと遅れて温め直したくなる時間帯に信号がピークを迎えていますね(笑)

ペトロフ氏の論文はこちらです。
最後に
いかがだったでしょうか。天文学者を悩ませた謎の信号が、まさか電子レンジ(しかも途中で扉を開けた場合に限る)だったとは!色々と思うところはありますが、私は1月の実験ではペリュトンを再現できなかった電子レンジを、2ヶ月後でも試し続けるペトロフさんの執念がすごいな、と思いました(笑)しかも、普通にやってもダメだったから、途中で開けてみよう!とかなかなか思いませんよね。。。
多分、当時ペトロフさんが学生だったからこそのトライだったのかな、と思います。プロの科学者になった後だと、電子レンジに固執して再現実験を行ったりトリッキーな使い方を試してみたりというのはなかなか難しいと思います。。。
皆さんも電子レンジでご飯を温める際には、ちゃんと最後まで温めるか停止ボタンを押してから開けてくださいね!そうじゃないと、どこかでその信号をキャッチして怪物の名前をつける人が現れるかもしれませんよ(笑)
本記事は途中で紹介した2本の論文と、あとはペトロフさんの以下のレポート記事を参照しています。

本日もお読みくださりありがとうございました!また次の記事でお会いしましょう。
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コメント
stargazingさん♪
ブログがあった…迷子になっていたので笑
なになに♬とドキドキしながら読んでいたら、可愛い結末でホッコリ致しました😊
ペトロフさんの探究心、stargazingさんと重なります✨
怪物の名前を付けられないように、ちゃんと止めてからレンジを開けるように致しますw
たおぷーさん、コメントありがとうございます!
実はドメイン(stargazing-blog.comというURL)使用料のお金を払った後にメールで来ていた本人確認をスルーしてしまい、ドメインが凍結されておりました(笑)私もブログにアクセスできなくなって驚いていましたw
岩手県奥州市にある国立天文台・水沢キャンパスはまさにパークス天文台同様の電波観測所です。
あそこはWi-Fiは使えないのですが、なぜか電子レンジの使用に対する規制はありませんでしたw
たおぷーさんも気をつけないと、どこかの電波天文学者やアマチュア無線愛好家からミステリー扱いされるかもしれませんよ!w
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