重力レンズって何?〜発見された重力レンズ天体〜

宇宙論
Credit: NASA/ESA Hubble Space Telescope, G. Rhee

重力レンズ解説シリーズの三本目の記事です。前回の記事では、重力レンズというアイディアに至るまでの道筋をご紹介しました。アインシュタイン、ちょっと嫌な感じでしたね(笑)

重力レンズって何?〜そのアイディアへ至る道〜
重力レンズ現象はどのようにして発見されたのか。その歴史を紐解きます。

この記事では、アインシュタインが観測は無理だといった重力レンズ天体を我々人類が発見する様子を見ていきたいと思います!

観測された重力レンズ天体

電波干渉計により「双子のクエーサー」が見つかる

1970年代はじめに、英国・マンチェスター大学のデニス・ウォルシュ教授を中心に、電波望遠鏡を使ったクエーサーの観測が精力的に行われました。電波望遠鏡を干渉計として使うことで、クエーサーの位置を極めて正確に求めたのです。電波干渉計の原理はこちらをご覧ください(必ずしも明快な説明ではないですが…)。

Dennis Walsh (1933 – 2005) Credit: The Royal Astronomical Society

クエーサーというのは、銀河中心のブラックホールからとてつもないエネルギーが発せられている銀河のことです。数は普通の銀河と比較して極めて少ないです。ここでは、とりあえずクエーサーとはとても明るくレアな天体であると認識してください。

ウォルシュはその後、電波観測で正確な位置を求めたクエーサーをアメリカのキット・ピーク国立天文台で分光観測を行いました。その観測天体の中に、極めて近い位置に存在するクエーサーのペアがありました。どれくらい近いかというと、地球から見た満月の大きさのおよそ300分の1です!夜空を見上げた時に、明るい星同士がそんなに近くにあることってまずないですよね。何よりもクエーサー自体が宇宙でとても稀な天体なので、そんな近距離で2つのクエーサーが存在するというのはとても不思議なことでした

人類が目にした、初めての重力レンズ天体

ツイン・クエーサーの画像。中央少し下の青っぽい明るい天体がクエーサーA、中央やや上がクエーサーB。近いように見えるが、AとBの間は満月の300分の1しか離れていない。中央には重力レンズを引き起こしている銀河が写っている。Credit: NASA/ESA Hubble Space Telescope, G. Rhee

近距離にあるこのクエーサーはまとめて「ツイン・クエーサー」と呼ばれました。上がツイン・クエーサーの画像です。写真の中央やや下と中央やや上にとても明るい天体が見えますね。これがクエーサーです。拡大しているので結構離れているように見えますが、先ほども言った通り実際には満月の300分の1しか離れていないんですよ!

そしてウォルシュがこのツイン・クエーサーを分光観測したところ、驚くべき事実が発見されました。なんと、ツイン・クエーサーAとBのスペクトルが極めて似通っていたのです。

スペクトルというのは、分光観測によって明らかになる各波長ごとの光の強さです。皆さんは太陽光をプリズムで虹色に分けたことがありますか?分光というのは、まさにそのように光を分解することなのです!光を波長ごとに分解してエネルギーの大きさ(=明るさ)を見たものをスペクトルと言います。

ツイン・クエーサーA(上)とB(下)の分光観測により得られたスペクトル。スペクトルの形が両者で極めてよく似ている。Michalitsianos et al. (1997), ApJ, 474, 598より引用。

上の図がツイン・クエーサーを分光してスペクトルを調べたものです。上がクエーサーA(下側にある青っぽい方)、下がクエーサーBのスペクトルです。

上図の二つのスペクトルを比べてみてください。とても似ていると思いませんか?銀河やクエーサーのスペクトルって銀河の中にどんな星がどれだけいるか、また光が地球に届くまでにどんな経路を通ったのかによって決まります。ですので、これだけスペクトルが似ているというのは、もはやクエーサーAとBが同じ天体であると考える方が自然なのです。

その後、重力レンズ現象を引き起こしている重力源と思われるレンズ銀河が見つかりました。ツイン・クエーサーの写真で、写真中央に写っているクエーサーBと重なっている天体です。クエーサーAとBの距離が近くスペクトルが似ていて、かつレンズ銀河が見つかったのです。状況証拠としては、十分すぎるくらいの材料が揃いました。

こうして、アインシュタインが「見つかるとは思えない」とまで論文で述べた重力レンズ天体を、人類はついに発見したのです!それにしても、同じ天体から発せられた光がレンズ銀河の重力によって曲げられ枝分かれし、あたかも違う天体のように観測されるというのはなんとも不思議ですよね。

最後に

今回は、人類が初めて発見した重力レンズ天体についてご紹介しました。

クエーサーってすごく珍しい天体のはずなのに、なんでこんな近くにあるんだろう?と不思議がられていたツイン・クエーサーですが、2つのクエーサーを分光観測したところスペクトルまでが瓜二つというまさかの衝撃展開でした。そして重力レンズ現象を引き起こしているレンズ銀河も見つかったので、これは1つの天体があたかも別々の天体のように観測された重力レンズ天体であると結論づけられたのでした。

さて、今回はクエーサーが2つに分離した重力レンズ天体でしたが、重力レンズ天体の形には他にもバリエーションがあると思いませんか?それに思い出してください。前回の記事でご紹介した、アインシュタインによって書かれた重力レンズ現象についての論文では、光源・重力源・観測者が一直線上に並ぶと星の像がリング状になると書かれていたじゃないですか!

次の重力レンズ解説シリーズの記事では、どんな形の重力レンズ天体があるのかをご紹介する予定です。あなたもきっと、重力レンズ天体の魅惑的な姿に心を奪われるかもしれませんよ(笑)

それでは最後に、本記事で参照した論文・文献をご紹介します。

本日もお読みくださりありがとうございました。次の記事でお会いしましょう!

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