重力レンズって何?〜そのアイディアへ至る道〜

宇宙論
Oren J. Turne

前回の記事では、光が曲がるということについてお話ししました。

【重力レンズ】光って曲がるの?
光が曲がるってどういうことだろう?

ここからは、いよいよ重力レンズについてご紹介します!この記事では、重力レンズという現象がどのようにして発見されたのかという道筋について解説します。

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重力レンズの歴史

光が曲がるという考え(アインシュタイン以前)

前回の記事でも述べたように、光が曲がると言うのはアインシュタインの一般相対論によって確立された現象です。

ですが、意外と古くから光が曲がることへの議論がありました。なんとニュートンラプラスといった著名な物理学者がアインシュタイン以前から光が曲がることについて言及していたそうです。

ニュートンの光学(opticks)という著書の第三篇末尾には、”Queries”という光に対する問いが集められています。このQueriesの一つに、以下の問いがあります。

Do not Bodies act upon Light at a distance, and by their action bend its rays; and is not this action strongest at the least distance?(物体は離れたところにある光に作用し、その作用によって光を曲げるのではないか。そして、この作用は光と物質の距離が最小となるときに最も強力になるのではないか?)

Opticks, 1704 (page 132), 和訳:DeepL + stargazer

300年前の英語のためちょっと自信がなかったので、和訳にはDeepLを使いました。DeepLの機械翻訳の結果に、ちょっと私が手を加えたものです。

アインシュタインが一般相対論を発表したのが1911年から1916年にかけてのことですので、その200年以上も前に物体の重力で光が曲がることを考えていたのです!ニュートンの慧眼にはただただ驚くばかりですね。

光が曲がるという考え(アインシュタイン以降)

そしてアインシュタインが登場して一般相対論を発表します。この理論では重力によって空間が歪むことを示しています。そして、光は最小の経路を通るために歪んだ空間近くでは進路を曲げることを予言したのです。この辺りは前回の記事をぜひ参考にしてください。

Albert Einstein (1879 – 1955)。Oren J. Turneにより撮影。

しかしながら、発表された理論は実験や観測によって正しいかどうかを検証されなければなりません。でも、空間の歪みなんで地球上の実験室では再現できないですよね。

それではどうやって一般相対論が検証されたかと言うと、この記事のテーマの一つでもある光の曲がりを観測しようとしたのです。実際に光が曲がるかを観測し、その曲がり方が一般相対論の計算通りであるならば、一般相対論は正しいと言うことです!

では、光の曲がりはどのようにして観測できるでしょうか?一般相対論が発表されたのが1916年頃なので、望遠鏡の性能は今よりもずっと低いです。

その答えは、私たちの身近な天体で一番重い、太陽を使うことでした。太陽は重力源として光を曲げてもらうのに使うので、曲げられる光は太陽の向こう側にある星です。

一般相対論の検証実験 〜光は本当に曲がるのか?〜

さて、実験の概要を図で見てみましょう。

星からの光が真っ直ぐ進む場合(左)と、太陽の重力によって曲げられてから地球に届く場合(右)。Copyright: Stargazing blog

上の図で、左側は星から発せられた光が真っ直ぐ進んで地球に届く場合の概念図です。これは問題ありませんね。

次に右側は、一般相対論が予言するように星から出た光が太陽の重力で曲げられてから地球に届く場合です。この時、星はどの位置に見えるでしょうか。なんと本来の位置(青い星)ではなく、曲がって届いた光を延長した位置に見えるのです!この星の位置のズレを観測できれば、光の曲がりを確認できたと言えます。

では、星が本来の位置からずれているのかどうやって調べるかを考えましょう。冬の夜空に現れる星は、決して正確ではないですがおおまかに言うと夏の昼空に現れています。ですので昼に太陽越しで見た星の位置が、真逆の季節の夜空で観測された時と位置がずれているのかどうかを確認すれば良いのです

でも、太陽ってすごく明るいですよね。眩しい太陽光のそばで、そんなわずかな位置のズレを観測できるのでしょうか?

そこでこの実験は、日食の際に行われました。日食とは、地球、月、太陽が一直線に並ぶことで太陽の光が月に隠される天文現象です。月に眩しい太陽を隠してもらって、そのスキに太陽の肩越しに見える星の位置が本来の位置からずれているかどうかを確認したのです。

この実験はアーサー・エディントンにより1919年アフリカで行われました。この当時はまだ第一次世界大戦の最中でした。エディントンは英国籍でドイツ国籍だったアインシュタインとは敵同士でしたが、彼は科学と政治は別物として一般相対論の検証を行ったりその成果を英国で広めたようです。素晴らしいの一言に尽きますね!

さて、注目の実験結果です。なんと、星の位置はアインシュタインの一般相対論の予言とピッタリ一致する位置で観測されました!これにより、重力によって空間が曲がり、さらに空間を伝う光が曲げられると言う難解な一般相対論は正しい理論であることが証明されたのです

重力レンズというアイディア

光が重力によって曲げられるという現象が事実であると証明されたアインシュタインは、1936年に以下の論文を投稿しました。

日本語でいうと、「重力場における光のズレによる星のレンズのような働き」でしょうか。この論文では、地球、星A、星B(星Bの方が地球から遠い)が一直線上に並び、星Bの光が星Aの重力で曲げられる状況を考えています。そして星Aの重力があたかもレンズのような働きをして、星Bがリング上に見えることを予言しているのです!

実際に論文を読んでみると、色々と面白い発見があります。(論文を読む場合は上のリンク先に飛び、右側のFULL TEXT SOURCESの下にあるアイコンをクリックしてください)

まず論文の冒頭は以下のようになっています。

Some time ago, R. W. Mandl paid me a visit and asked me to publish the results of a little calculation, which I had made at his request. This note complies with his wish.(少し前に、R. W. Mandlが私を訪ねてきてちょっとした計算結果を論文にして欲しいと頼んできた。この論文は彼の求めに応じたものである。)

Einstein (1936, Science, 84, 506), 和訳:stargazer

なんと、重力レンズのアイディアは一般相対論を構築したアインシュタインではなく、Mandlという人物だったのです!Wikipediaを見てみると、Mandlとはプロの科学者ではなく技術者だったようです。

そしてこの論文では重力レンズのアイディアを述べた後にこう言っています。

Of course, there is no hope of observing this phenomenon directly. First, we shall scarcely ever approach closely enough to such a central line. Second, the angle β will defy the resolving power of our instruments. (もちろん、この現象を直接観測できる望みはない。第一に、私たちは中心線に近づくことはほとんどないであろう。第二に、角度βは私たちの観測装置の分解能に楯突くだろう。)

Einstein (1936, Science, 84, 506), 和訳:stargazer

なんかアインシュタインが完全に諦めきっているのはわかりますね。一つずつ見ていきましょう。

まずは「第一に、私たちは中心線に近づくことはほとんどないであろう」の部分です。実は重力レンズは、地球、重力源、光源が一直線に並ばないと生じない現象なんです。エディントンによる実験でも、地球、太陽、星が一直線に並んでいましたね。星Aと星Bのペアは無数にあれど、その延長線上に地球が来ることはほぼないであろう、というのがアインシュタインの考えでした。

次に、「第二に、角度\(\beta\)は私たちの観測装置の分解能に楯突くだろう」という部分です。角度\(\beta\)とは、リング上になった星Bの半径です。当時の観測装置は細かいところを分解しきれず荒っぽくなってしまうので、仮にリング上になった重力レンズ天体があってもそのリングを分解して観測できない、という意味です。

あの柔軟な発想力を持つことで有名なアインシュタインですが、始めから諦めているというのがちょっと面白いですね!しかも、Wikipediaによると論文が掲載されたのちに出版社へ以下の感謝の手紙を送ったそうです。

Let me also thank you for your cooperation with the little publication, which Mr. Mandl squeezed out of me. It is of little value, but it makes the poor guy happy. (Mandlさんが私に書かせた、つまらないあの論文の出版へのご協力を感謝いたします。意味のない結果ですが、あの残念な男を幸せにすることはできたようです。)

https://ja.wikipedia.org/wiki/重力レンズ, 和訳:stargazer

うん、ひどいですね(笑)アインシュタインは半ば厄介払いのような感じで渋々Mandlのアイディアを論文化したようですね。。

アインシュタインは重力レンズ現象が起こる確率も低いし、そもそもそんなの観測できないと諦めていますね。そして無下に却下することもできないアイディアを持ち込まれたものだから、仕方なくそれを論文にしてあげたと(笑)ですが、この論文がのちに大きな意味を持つこととなるのです!

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最後に

ここまで長かったですね(笑)ちょっと長くなりすぎましたので、この記事はここまでにします。

この記事では、偉大な物理学者による光が曲がることへの考察とその検証、そして光が曲がることを利用した重力レンズのアイディアについてご紹介しました。

次の記事では、いよいよ重力レンズ天体の発見と様々な重力レンズ現象についてご紹介します。いよいよ本丸に近づいてきたので、次の記事を見逃さないようにちゃんとチェックしてくださいね!

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コメント

  1. たおぷー より:

    stargazingさん♪
    「重力レンズ」って、学園ものの映画のタイトルみたいですね。

    何度も「重力カレンズ」って読んじゃいました。
    「重力カレンズ」、何か格好いい?
    って思ったら、カレンズって干しぶどうだったんですね。
    今、脳内がダークマター状態(使ってみたかった笑)なのでスミマセンでした💦

    • stargazer より:

      たおぷーさん、ありがとうございます!

      このブログを始めてから(というか向こうでも)、ちょっと重力レンズを多用しすぎな気がしましたw
      ちょっとこの記事は抽象的な感じでぼんやりしていましたね。。。
      次の記事では実際に観測された重力レンズ天体の紹介や、
      重力レンズ現象を使えばどんなことがわかるかを解説する予定です!
      後の記事で重力レンズがぼんやりとわかった段階でもう一度読んでいただくと、
      全くイメージできていない時よりもなんとなぁーく理解が深まるかもしれませんね。

      ダークマター、ぜひどんどん使ってやってくださいw

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